Archelier の鉄骨機能を紹介する使い方ガイド、How to use 編の第4弾です。前回までは BeamJoint(梁継手)、GussetPlate(ガセットプレート)、Brace(ブレース)と、鉄骨部材そのものを配置する3つの機能を順に解説してきました。今回は少し視点を変え、部材を配置する話から一歩引いた「小ワザ編」としてお届けします。テーマは、GussetPlate の設定ダイアログに用意された2つのユーティリティボタンです。派手さはないものの、知っているか知らないかで毎日の作業効率に地味な差が生まれる、そんな縁の下の力持ちのような機能に光を当ててみましょう。
ダイアログ右下「デフォルト」ボタン — 試行錯誤のセーフティネット
GussetPlate のダイアログを開くと、実に多くのパラメータが並んでいます。プレートの形状や厚み、ボルトの径やピッチ、孔のクリアランスなど、詳細なディテールを追い込むために必要な項目ばかりです。実務では、構造設計者とのやり取りや納まりの検討の中で、これらの数値を何度も調整することになります。
値を少し変えては適用し、3Dビューで確認してまた調整する。そんな試行錯誤を繰り返しているうちに、「あれ、最初の設定値はどうだったっけ」「標準的な納まりの寸法はいくつだったかな」と、元の状態が分からなくなってしまう経験は誰しもあるのではないでしょうか。そんな時に心強い味方となるのが、ダイアログの右下にある「デフォルト」ボタンです。
このボタンをクリックすると、全てのパラメータがアドオンの初期値、いわば工場出荷時の状態に一瞬でリセットされます。これは、迷ったらいつでも出発点に戻れるという「セーフティネット」の役割を果たします。このボタンの存在を知っていれば、安心して大胆なパラメータ調整に踏み切れます。いくつも数値を変更した後でも、ワンクリックで基準となる状態に戻し、変更したものと比較検討できる。この安心感は、設計の試行錯誤における精神的な負担を大きく軽減してくれます。まさに、いざという時のための保険のような存在です。
ダイアログ中央「小梁の上面を大梁に整合」ボタン — 位置合わせの自動化
次にご紹介するのは、ダイアログの中央付近に配置された「小梁の上面を大梁に整合」という細長いボタンです。その名の通り、このボタンはガセットプレートが取り付く小梁の上面(天端)レベルを、親となる大梁の上面レベルに自動でぴったり合わせてくれる機能です。
例えば、大梁と小梁の天端を揃えてスラブレベルを合わせたい場合、通常であれば梁せいの差などから取り付きレベルを計算し、オフセット値を手で入力する必要があります。しかし、このボタンを使えば、面倒な計算や手入力は一切不要です。ただボタンをクリックするだけで、Archelier が適切なオフセット値を算出し、小梁の位置を自動的に調整してくれます。単純なレベル合わせであれば、このワンクリックで作業が完了します。
この機能は、単なる時短ツールに留まりません。手入力による計算ミスや入力ミスといったヒューマンエラーを防ぐという、品質管理の側面でも非常に有効です。単純な作業だからこそ、自動化によって得られる恩恵は大きいと言えるでしょう。
真価は寄棟の隅梁(隅木)にあり
この「小梁の上面を大梁に整合」ボタン、実は寄棟屋根の隅梁(隅木)のような勾配を持つ部材を扱うときに、その真価を発揮します。隅梁に対して直交ではなく斜めに取り付く母屋や小梁は、その取り付き位置によって天端レベルが少しずつ変化します。このレベル差を正確に算出しようとすると、屋根勾配と部材の配置関係から三角関数を使って計算する必要があり、地味に手間がかかる作業です。
このボタンは、こうした勾配が絡む複雑な幾何学計算を内部で自動的に解いてくれます。つまり、勾配のついた隅梁に対してどの位置に小梁を取り付けようとも、ボタン一つで小梁の天端を隅梁の天端勾配に正確に追従させることができるのです。鉄骨造の屋根組はもちろん、木造の登り梁や隅木と鉄骨の小梁が絡むような混構造のディテール検討においても、この機能は絶大な効果を発揮します。これまで手計算で時間をかけていた作業がワンクリックで終わる、まさに知っている人だけが得をする小ワザです。
まとめ — 派手さはなくとも、超便利な2つのボタン
今回は、GussetPlate ダイアログに隠された2つの便利ボタン「デフォルト」と「小梁の上面を大梁に整合」をご紹介しました。どちらも新しい部材を生成するような派手な機能ではありません。しかし「デフォルト」ボタンは試行錯誤の迷子を防ぐセーフティネットとして、「小梁の上面を大梁に整合」ボタンは面倒なレベル計算を自動化する効率化ツールとして、日々の設計実務を確実に、そして静かに支えてくれます。
こうした細やかな機能は、毎日ツールに触れる実務者であればあるほど、そのありがたみを実感できるはずです。次に GussetPlate のダイアログを開いた際には、ぜひ一度、この2つのボタンの存在を意識してみてください。きっと、あなたの ArchiCAD での鉄骨設計を、より快適なものにしてくれるでしょう。
次回予告 — 社内先行積算シリーズ始動
鉄骨設計の効率化をテーマに、これまで配置機能の使い方を 4 本にわたってお届けしてきました。次回からはカテゴリを変えて、Archelier のもう一つの柱である「積算機能」を掘り下げる新シリーズ「社内先行積算」を始めます。第 1 弾は「鉄骨のトン数を即答する — Archelier で形鋼の重量を拾う」。施主から「だいたい何トン?」と問われたときに、ArchiCAD のモデルから即答するためのワークフローを解説します。
Archelier の機能詳細は 機能紹介ページ をご覧ください。