Archelier 使い方ガイド、第3弾へようこそ。前回は、現代住宅で最も普及している「FlatTile(平板瓦)」を、瓦寸法・働き寸法・自動瓦割り・千鳥配置・棟の幅という5つの基本パラメータを軸に解説しました。シンプルでミニマルな現代住宅への入口が FlatTile だとすれば、今回取り上げる「JTile(日本瓦)」は、Archelier の表現力の真骨頂とも言える瓦タイプです。緩やかな凹みのカーブ、リブが作る山と谷のリズム、軒先を飾る巴瓦、そして寄棟の隅棟の先に光る隅巴。和瓦らしさを決定づける一つひとつの要素を、Archelier がどのようにパラメータ化しているのか。今回は JTile ダイアログの主要パラメータを順を追って解説し、最後に「棟は HipTile に任せる」という設計思想についてもお話しします。
JTile とは — 日本の伝統意匠を司る桟瓦
「JTile」とは、いわゆる桟瓦(さんがわら)、つまり J 形と呼ばれる日本伝統の和瓦をモデリングするためのオブジェクトです。粘土を焼成した陶器瓦の一種で、表面に緩やかな凹みのカーブとリブ(山)を持ち、葺き上げると屋根面に独特の山と谷のリズムが現れます。
この山と谷のリズムこそが、和瓦の屋根に深い陰影と表情を与えます。太陽の角度によって刻々と変化する屋根面の影は、テクスチャだけでは絶対に出せない、3D モデル化されているからこその表現です。Archelier の JTile は、この複雑な瓦形状を BRICK 分割の曲面で正確に再現したうえで、軒先の巴瓦・折り曲げ・ケラバ役物・隅巴といった付属物まで含めて、屋根スラブから一括で自動配置します。
FlatTile が現代住宅への入口だとすれば、JTile は和の意匠を本気で扱うための瓦タイプです。住宅から寺社建築まで、伝統的な瓦屋根を求められる場面で力を発揮します。
配置の基本フロー
配置フローは FlatTile とまったく同じです。ArchiCAD 標準の屋根ツールで屋根スラブを作成し、そのスラブを選択した状態で Archelier の屋根配置メニューを起動。瓦タイプの一覧から「JTile」を選び、OK ボタンを押すだけです。
これで、屋根スラブの形状を解析した Archelier が、桟瓦の全面配置・軒先の巴瓦・ケラバ役物までを一括で生成します。さらに、寄棟・T 字・L 字といった棟を持つ屋根タイプの場合は、大棟・隅棟に専用の棟役物「HipTile」が自動で連携配置されます。
JTile で押さえる主要パラメータ
ここからが本題です。JTile ダイアログには FlatTile より多くのパラメータが用意されていますが、考え方を整理すれば決して難しくありません。大きく「寸法系(FlatTile と共通)」「形状系(JTile 固有:曲面・リブ・瓦角度)」「役物系(巴瓦・折り曲げ・ケラバ・隅巴)」の3つに分けて見ていきましょう。
1. 瓦寸法 と 働き寸法(FlatTile と共通)
「瓦 全幅 / 瓦 全長 / 瓦 厚み」と「働き幅 / 働き長さ」は、FlatTile 編で解説したものとまったく同じ考え方です。メーカーの製品カタログにある「製品寸法」と「働き寸法」をそのまま入力していただければ問題ありません。
JTile のデフォルトは、瓦 全幅 310mm / 瓦 全長 310mm / 瓦 厚み 14mm / 働き幅 270mm / 働き長さ 235mm に設定しています。一般的な J 形和瓦の寸法レンジを意識した値です。製品を変えるときだけ、カタログ寸法に合わせて差し替えてください。
2. 自動瓦割り(FlatTile と共通・基本 ON)
「自動瓦割り」も FlatTile と同じです。デフォルトの ON のままにしておくことで、屋根スラブの寸法に応じて列数・段数を Archelier 側が自動計算してくれます。基本は ON のまま、屋根スラブを描いて瓦タイプを選ぶだけ、というシンプルなワークフローを意識しています。
ただし、FlatTile 編でも触れたとおり、桁行方向(横方向)の瓦割り(屋根の桁行スパンを瓦の働き幅の整数倍に合わせる検討)は、設計者ご自身にあらかじめ行っていただくのが原則です。袖瓦・ケラバ役物の幅で調整するなど、現場の慣行に沿った瓦割りは、設計段階でしっかり詰めておく必要があります。Archelier は瓦割りが完全に合っていなくても、どちらの方向にも瓦が破綻せず配置されるよう設計してありますが、最終的な意匠の美しさは、やはり事前の瓦割り検討の精度で決まります。
3. 千鳥配置は「OFF」がデフォルト
JTile と FlatTile の最初の明確な違いがこのパラメータです。JTile では「千鳥配置」のチェックボックスが OFF の状態がデフォルトになっています。
これは、日本瓦の伝統的な葺き方が芋葺き(いもぶき)、つまり上下の瓦の継ぎ目(縦目地)が一直線に揃う葺き方を基本としているためです。整然と縦のラインが通る芋葺きは、日本家屋らしい端正な様式美を屋根面に与えます。FlatTile では防水性・耐風性の観点から千鳥が一般的なのに対し、JTile は意匠としての「縦通し」を優先するわけです。
もちろん、千鳥にしたい設計意図がある場合は ON にすれば対応できますが、和風建築の表現を目指すなら、まずはデフォルトの OFF(芋葺き)で生成した屋根の表情を確かめてみることをお勧めします。
4. 曲面の凹み量(curve_h)— 谷の深さ
ここから JTile 固有のパラメータに入ります。「曲面の凹み量」は、瓦1枚が持つ滑らかなカーブ、つまり谷の最も深い部分の深さをコントロールする値です。
初期値は 12mm。この数値を大きくすると瓦の谷が深くなり、屋根全体の陰影が強調されます。寺社建築のような重厚感を狙う場合は少し大きめに。逆に 0 にすると凹みのない平らな瓦になり、見た目は FlatTile に近づきます。同じ屋根スラブでも、この値を 12mm から 24mm まで触ってみるだけで、屋根の印象がはっきり変わるのを確認できるはずです。
5. 瓦角度(tile_angle)— 桟瓦の水返し
「瓦角度」は、瓦1枚を屋根の流れ方向にわずかに起こす角度です。初期値は 2.5°。
これは実際の桟瓦が持つ「水返し」の機能を模したものです。瓦の軒先側を少し持ち上げることで、雨水が下流の瓦へとスムーズに流れる仕組みを 3D モデル上でも表現します。屋根面全体を少し離れて見ると、瓦同士の重なりに微妙な段差とリズムが生まれ、リアリティがぐっと上がります。通常はデフォルトの 2.5° のままで問題ありません。
6. リブ高さ/リブ幅 — 山の表情
曲面の凹み量が「谷」を司るパラメータなら、「リブ高さ」と「リブ幅」は山を作るパラメータです。「リブ」とは、日本瓦の縦方向に走る丸みを帯びた盛り上がりの部分のこと。
初期値はリブ高さ 20mm / リブ幅 35mm。リブ高さを大きくするほど屋根の稜線が立ち上がり、力強い表情になります。リブ幅はリブの幅を決め、シャープな山にもゆったりとした丸い山にも調整できます。後述する HipTile(棟役物)との取り合いにも影響する寸法なので、棟付近の見え方が気になる場合はここを微調整してみてください。
7. 巴瓦 — 軒先を飾る和の象徴
和瓦の屋根を語る上で外せないのが、軒先の先端に円盤状で取り付けられる巴瓦(ともえがわら)です。神社仏閣の屋根先端で渦巻き模様が彫られている、あの円盤を思い浮かべていただければイメージが湧くはずです。
JTile を選ぶと、デフォルトでこの巴瓦が自動配置されます。初期値は半径 40mm / 厚み 6mm。これだけで、屋根の印象は一気に「和」へと寄ります。建物のスケール感に応じて、半径・厚みを少し調整すると、軒先のシルエットがより締まって見えます。一方、巴瓦を出したくないモダンな和瓦表現を狙う場合は、表示を OFF にすることもできます。
8. 軒先折り曲げ — リアリティを足すフランジ
「軒先折り曲げ」は、軒先の瓦の先端を 90 度下向きに折り曲げて、雨水の切れを表現するためのフランジです。初期値は ON / 折り曲げ長さ 35mm。
これをオンにすると、軒先のラインがシャープに見え、リアルな雨仕舞いの表現が加わります。意匠上で軒先を厚く見せたい・薄く見せたいといった調整にも使えます。普段はデフォルトのまま、軒先のディテールが気になるときだけ長さを触れば十分です。
9. ケラバ役物
「ケラバ」とは、切妻屋根・片流れ屋根の妻側、つまり雨樋が付かない側の屋根端部のことです。ここに被せる役物が「ケラバ役物」です。初期値は表示 ON / 高さ 40mm。
ON にすることで、屋根の妻側端部に専用の役物が配置され、横から見たときのシルエットが引き締まります。和瓦の屋根は、この袖(妻側)の納まりが意外と印象を左右するので、ケラバ役物の有無で側面のフォルムがどう変わるかも、ぜひ見比べてみてください。
10. 隅巴 — 寄棟の社寺風アクセント
最後にもう一つ、和瓦らしさを大きく左右するパラメータが「隅巴(すみどもえ)」です。これは寄棟屋根の角、つまり隅棟(すみむね)の先端に配置される巴瓦をコントロールするスイッチで、初期値は ON です。
少し変わったポイントとして、この隅巴は JTile 本体ではなく、棟役物の HipTile が描画する役物です。ただし、設計者の操作を一箇所にまとめるため、連携機能として JTile ダイアログから ON/OFF を切り替えられるようにしてあります。寄棟の和瓦屋根を、より格式高く、社寺建築のような趣に仕上げたいときに ON にしてみてください。隅棟の先端に巴瓦が乗り、屋根全体のシルエットが一段と引き締まります。
棟まわりは HipTile に任せる(役割分担)
ここまで JTile のパラメータを並べてきて、勘の良い方は気づかれたかもしれません。FlatTile のダイアログにあった「棟の幅」や、和瓦のし瓦・冠瓦に関する設定項目が、JTile のダイアログには存在しないのです。
これは Archelier の「適切な役割分担」という設計思想の表れです。和瓦の棟は、のし瓦を複数段積み、その上に冠瓦を乗せる、複雑な構成要素から成り立っています。これらをすべて JTile に押し込むとパラメータが膨大になり、ダイアログがかえって扱いづらくなってしまいます。そこで、責任を明確に分けました。
- JTile — 平場の桟瓦、軒先(巴瓦・折り曲げ)、ケラバを担当
- HipTile — 大棟・隅棟・降り棟といった、屋根の稜線を構成する棟役物(のし瓦・冠瓦・隅巴)を担当
寄棟・T 字・L 字といった棟を持つ屋根タイプの場合、Archelier は JTile と一緒に HipTile を自動で連携配置します。設計者はそれぞれのダイアログで「平場をどう見せたいか」「棟をどう見せたいか」を独立に調整できるわけです。ちなみに、シンプルな切妻屋根に関しては HipTile は使わず、屋根本体(JTile)側で棟まわりを納める運用になります。HipTile の詳細なパラメータは、次回のガイドで詳しく取り上げる予定です。
設計変更への対応 — 屋根コマンドを再実行
「屋根勾配を少し変えたい」「屋根面の形状を見直したい」といった設計変更が入った場合、現バージョンの Archelier では、配置済みの瓦がスラブ編集に自動追従する仕組みは持っていません。お手数ですが、屋根スラブを編集したあとに、もう一度 Archelier の屋根コマンドを実行して瓦を生成し直してください。古い瓦を削除し、変更後の屋根スラブを選択して屋根コマンドを実行する、というシンプルな手順です。
とはいえ、設計者が瓦を一枚ずつ手で並べ直す必要はありません。屋根スラブの形を整え、コマンドを一度実行すれば、新しいスラブ形状に合わせた桟瓦・巴瓦・ケラバ役物・連携する HipTile までが、再びまとめて自動配置されます。和瓦の屋根は意匠検討の中で何度も寸法を触り直すパートですが、再生成のコストはコマンド一発分。手作業で瓦を貼り直すことを考えれば、設計検討の回転数が大きく変わるはずです。
なお、JTile などの瓦系オブジェクトでは、オブジェクト側のパラメータで瓦そのものを軒先方向に「伸ばす」こともできません。軒の出を変えたい場合は、必ず屋根スラブ側を編集したうえで屋根コマンドを再実行してください。屋根オブジェクト単体で軒先・水上を延ばせるのは、後のシリーズで扱う MetalRoof(金属屋根)と FoldedRoof(折板屋根)の2タイプだけです。
どんなときに JTile を選ぶか
最後に、実務で JTile を選ぶシーンを整理しておきましょう。
- 伝統的な和風住宅・古民家再生・歴史的景観の再現
- 寺社建築・城郭建築など、格式の高い瓦屋根を扱うプロジェクト
- 意匠上、山と谷の陰影で屋根面の表情を強く出したいとき
- 施主に和瓦案と平板瓦案の比較を見せたい意匠検討フェーズ
- BIM モデル上で「芋葺き/千鳥葺き」の仕様を明示的に残したいとき
JTile は、Archelier の中でも最も「和の意匠」に近い瓦タイプです。和瓦を扱うプロジェクトが少しでも視野に入ったら、まずは屋根スラブを一枚描いて、JTile を当ててみてください。デフォルト設定だけでも、和瓦特有の陰影がしっかりと屋根面に現れます。
現状の制約 — 入母屋・反り屋根は未対応
正直にお伝えしておきたい現状の制約があります。現バージョンの Archelier は、入母屋(いりもや)屋根には対応していません。また、反りのある隅木(曲線の隅木)や、社寺建築で見られる起り(むくり)・照り(てり)といった基本曲線・反りを持つ屋根形状にも未対応です。これらは現状、自動配置を試みると瓦の割り付けが破綻するか、そもそも形状が認識されません。
このうち入母屋については、平面が矩形プランの入母屋であれば、今後の対応可能性があります。寄棟+切妻の組み合わせとして判定ロジックを拡張すれば、自動配置に乗せられる見込みがあるためです。ユーザー様からのご要望が一定数集まりましたら、実装を前向きに検討いたします。一方、L 型・T 型プランの入母屋に関しては、棟の分岐と入隅の納まりが破綻するため、現時点では保留としています。
また反りのある隅木・基本曲線を持つ屋根については、現バージョンでの実装計画はありません。社寺建築の正統な再現が求められる場面では、Archelier の自動配置はあくまで「下地のたたき台」としてご利用いただき、最終的な反り・曲線表現は別途モデリングしていただく前提でお考えください。
次回予告 — HipTile(棟役物)編
今回の JTile 編では、「平場・軒先・ケラバ」までを Archelier がどう自動化しているかを掘り下げました。しかし、和瓦の屋根は棟が決まらないと完成しません。建物の格式や品位を決定づける、最後にして最も難しいパートです。
次回、シリーズ第4弾では、いよいよ棟役物「HipTile」を取り上げます。のし瓦の段数、冠瓦の意匠、寄棟・T 字・L 字といった屋根タイプごとに変わる大棟・隅棟の伸ばし方、そして JTile 側からも連携できる隅巴のオン/オフ。JTile と HipTile が合わさって初めて完成する、本物の和瓦屋根の姿を、次回じっくり解説していきます。
Archelier の屋根機能の詳細は 機能紹介ページ をご覧ください。