Archelier 使い方ガイド、第4弾へようこそ。前回は、和瓦の表現力を凝縮した「JTile(日本瓦)」を、その主要パラメータを軸に解説しました。JTile や FlatTile が屋根の広大な「平場」を担うオブジェクトだとすれば、今回取り上げる「HipTile」は、屋根の稜線を司る「棟」専門の役物です。これら平場と棟の役割分担こそが、Archelier の屋根生成における設計思想の根幹をなしています。隅棟や大棟といった、屋根の骨格を決定づける部位を、Archelier がどのように自動配置し、制御しているのか。今回は HipTile を、まず「屋根タイプ別の自動配置の挙動」という観点から解き明かし、次に「HipTile が持つ主要パラメータ」を順を追って解説していきます。
HipTile とは — 屋根の稜線を司る棟役物
HipTile は、寄棟屋根の隅棟(Hip)や大棟(Ridge)といった、屋根の稜線を仕上げるための棟役物オブジェクトです。ArchiCAD のライブラリ上では、JTile や FlatTile、MetalRoof と並ぶ独立した GSM オブジェクトとして存在しますが、その位置付けは大きく異なります。JTile たちが設計者の意図に応じて屋根スラブ上に配置される「主役」であるのに対し、HipTile は屋根コマンドがその処理の過程で自動的に連携配置する「脇役」であり、基本的には設計者がライブラリから直接配置するものではありません(ただし、自動配置の対象外となる特殊な棟をどうしても手で足したい場合は、ライブラリから直接配置することも可能です。後述します)。
なぜ、このような構成にしているのか。それは、前回 JTile 編でも触れた「平場と棟の責任を分離する」という設計思想に基づいています。屋根のモデリングにおいて、平場の瓦と棟の役物は、似て非なるパラメータとロジックで制御されるべきです。平場は瓦の寸法や割り付けが重要ですが、棟は屋根形状(寄棟、切妻など)に応じた端部の「納まり」が最重要課題となります。これらを一つの巨大なオブジェクトで管理しようとすると、パラメータは複雑化し、処理も重くなります。Archelier では、平場は JTile/FlatTile に、棟は HipTile に、それぞれの責務を明確に分離させることで、パラメータの単純化と軽快な動作、そして何より屋根タイプに応じた柔軟な自動配置を実現しているのです。
配置の基本フロー — 屋根コマンド一発で連携配置
HipTile の配置は、驚くほどシンプルです。設計者が行う操作は、ArchiCAD 標準の屋根ツールで屋根スラブを描き、Archelier の屋根コマンドを実行して、ダイアログから瓦タイプ(FlatTile や JTile)を選ぶだけ。これだけで、HipTile は大棟や隅棟といった必要な箇所に自動で配置されます。つまり、設計者は HipTile の存在を直接意識することなく、棟役物が適切に配置された屋根モデルを手にすることができるのです。
この自動配置の裏側では、Archelier の屋根コマンドがいくつかの処理を担っています。まず、作成された屋根スラブの形状から、それが「寄棟」なのか「切妻」なのか、あるいは「T字」「L字」といった複合形状なのかを自動で判定します。そして、判定した屋根タイプに応じて、HipTile をどこに、どの向きで、どれだけの長さで配置すべきかを計算します。特に重要なのが、棟の端部をどれだけ伸ばすか、あるいは引っ込めるかという「伸長値」の制御です。この値は、屋根タイプごとの意匠的な納まりを考慮して、コマンド側で自動的に HipTile のパラメータへ書き込まれます。設計者はただ屋根を描くだけで、Archelier が屋根形状に最適な棟のディテールを自動で生成してくれる、というわけです。
屋根タイプ別の自動配置メニュー
ここからは、本記事の核心である、屋根タイプごとの HipTile の自動配置挙動について詳しく見ていきましょう。同じ HipTile オブジェクトでも、屋根の形状によって配置される場所や端部の納まりがどのように変わるのか。特に JTile(日本瓦)モードにおける、意匠を考慮した細やかな制御に注目してください。
なお、ここから紹介する伸長値は、屋根コマンドが書き込む初期値にすぎません。配置後はそれぞれの HipTile を選択し、ダイアログから自由に寸法を変更し、お好みの長さに調整してください。屋根コマンドはあくまで意匠のたたき台を整える役で、最終的な納まりは設計者の手で仕上げる、というのが Archelier の基本スタンスです。
寄棟屋根
最も基本的な屋根形状である寄棟屋根では、頂部の「大棟」と、四隅に下る「隅棟」の2箇所に HipTile が配置されます。それぞれの端部の伸長値は、以下のように設定されます。
- 大棟: 軒先側(端部)+50mm、棟側(端部)+50mm
- 隅棟: 軒先側(水下)-180mm、棟側(水上)+50mm
大棟は、両端をそれぞれ50mmずつ外側に伸ばすことで、屋根全体のシルエットを引き締め、安定感のある意匠を生み出します。一方、隅棟は軒先側を-180mm、つまり屋根の端から180mm内側に引っ込めて配置されます。これはなぜでしょうか。JTile を使う寄棟屋根の軒先には、意匠の要となる「巴瓦」が配置されます。隅棟の先端が軒先まで伸びてしまうと、この巴瓦と干渉し、美しい意匠を損なってしまいます。そこで、あえて隅棟を大きく後退させることで、巴瓦の存在感を際立たせ、伝統的な和瓦屋根のディテールを忠実に再現しているのです。棟側の端部は、大棟との取り合いを確実にするため、50mm伸ばして隙間なく接続されるよう調整されています。
切妻屋根
切妻屋根の場合、隅棟は存在せず、頂部に一本の「大棟」が配置されるのみです。この大棟の伸長値は、寄棟とは異なる挙動を示します。
- 大棟: 軒先側(ケラバ側)-30mm、棟側(ケラバ側)-30mm
寄棟では両端を伸ばしたのに対し、切妻では逆に両端をそれぞれ30mmずつ内側に引っ込めます。これは、切妻屋根の妻側(ケラバ)の納まりを考慮した設定です。通常、ケラバには専用の役物瓦が施工され、それが屋根面よりも少し外側に張り出す形になります。大棟がケラバ役物よりも外側に出てしまうと意匠的に美しくないため、Archelier では大棟をわずかに内側に控えることで、ケラバ役物との適切な力関係を保ち、すっきりとした妻側の表情を作り出します。
T字屋根
平面形状がT字型になる屋根は、2つの切妻屋根が交差する形になります。この場合、HipTile の挙動は基本的に切妻屋根に準じます。
- 大棟: 軒先側 -30mm、棟側 -30mm
それぞれの棟の端部は、切妻屋根と同様にケラバから30mm内側に控えて配置されます。T字屋根で特徴的なのは、2つの大棟が交差する「谷」部分の処理です。通常、モデリングをすると、一方の棟がもう一方の棟の内部に貫通してしまいます。Archelier の屋根コマンドはこれを自動で検知し、「Notch SEO Trim」と呼ばれる内部処理を実行します。これにより、谷の裏側で貫通している不要な部分が自動的にソリッド編集(SEO)で減算され、設計者が意識することなく、常に正しい形状で棟がモデリングされるようになっています。
L字屋根
平面形状がL字型になる屋根は、寄棟屋根のバリエーションと捉えることができます。大棟と隅棟が配置される点は寄棟と同じですが、隅棟の伸長値にわずかな違いがあります。
- 大棟: 軒先側 +50mm、棟側 +50mm
- 隅棟: 軒先側 -180mm、棟側 +100mm
大棟の挙動は寄棟とまったく同じで、両端を50mmずつ伸ばします。隅棟の軒先側も同様に、巴瓦を避けるために-180mm後退させます。違いは隅棟の棟側(水上)の延長値です。寄棟では+50mmでしたが、L字屋根では+100mmと、より長く伸ばされます。これは、L字屋根の入隅部分の取り合いを考慮した調整です。L字の入隅は、単純な寄棟の頂部と比べて大棟との接続が片側に寄るため、隅棟の先端を少し長めに確保することで、隙間なく安定した取り合いを実現しています。また、T字屋根と同様に、L字屋根特有の「出隅貫通瓦 SEO」も自動で処理され、常にクリーンなモデルが生成されます。
ここまで JTile モードを基準に解説してきましたが、親屋根が FlatTile(平板瓦)や MetalRoof(金属屋根)の場合は、挙動が少しシンプルになります。これらの屋根タイプでは、軒先に巴瓦が存在しないため、隅棟を-180mmも後退させる必要がありません。そのため、屋根タイプによらず、大棟は軒先側+50mm / 棟側+50mm、隅棟は軒先側0mm / 棟側0mm という共通のルールで配置されます。このように、HipTile は親となる屋根の「瓦タイプ」も参照しながら、その挙動をインテリジェントに切り替えているのです。
HipTile の主要パラメータ
屋根コマンドによる自動配置で、ほとんどのケースは事足ります。しかし、より細かな意匠の作り込みや、特殊な納まりに対応するため、HipTile は単体のオブジェクトとしても豊富なパラメータを備えています。ここでは、その中でも特に重要なものをいくつか紹介します。
1. 親屋根タイプ — 平板 / 日本瓦 / 板金
このパラメータは、HipTile がどの種類の屋根面の上に乗っているかを示すもので、「0=平板」「1=日本瓦」「2=板金」のいずれかの値を取ります。HipTile はこの値に応じて自身の見た目を変化させます。例えば「1=日本瓦」が指定されれば、のし瓦や冠瓦といった和瓦特有の要素を表示し、「0=平板」であればシンプルな棟瓦のみを表示します。通常、この値は屋根コマンドが自動で設定するため設計者が直接変更する必要はありませんが、配置後に「この棟だけ、のし瓦を消したい」といった調整を行いたい場合に、このパラメータの「読み方」を知っておくと、意図した通りの編集がスムーズに行えます。
2. のし瓦(日本瓦モードのみ)
親屋根タイプを「日本瓦」に設定したとき、棟の重厚感や格式を表現するのが「のし瓦」です。
- のし段数: 棟瓦の下に積み上げる、平たい「のし瓦」の段数を指定します。デフォルトは3段ですが、格式を重んじる寺社建築などでは、この段数を増やすことで棟の高さを強調します。
- のし瓦 厚み: のし瓦一枚あたりの厚みです。デフォルトは25mmです。
- のし段差(段ごとの縮み幅): 下の段から上の段へ、どれだけ内側に引っ込むかを指定します。デフォルトは15mmで、これにより、のし瓦全体が美しい台形のシルエットを描きます。
3. 冠瓦(日本瓦モードのみ)
のし瓦の一番上に乗り、棟の頂点を仕上げる半円筒形の瓦が「冠瓦」です。
- 冠瓦表示: 冠瓦を表示するかどうかのスイッチです。デフォルトはONです。
- 冠瓦 半径: 冠瓦の断面の半径を指定します。デフォルトは60mmで、この値を調整することで棟全体のボリューム感をコントロールできます。
4. 棟瓦形状(共通)
全てのモードで共通して使用される、棟瓦自体の形状を定義するパラメータです。
- 棟瓦 片側かぶり: 棟瓦が、左右の屋根面の平場瓦にどれだけかぶさるか、その幅を指定します。デフォルトは80mm。これは雨仕舞い性能に直結する重要な寸法です。
- 棟瓦 厚み: 棟瓦自体の厚みです。デフォルトは28mmです。
- 軒端(水下)延長 / 棟端(水上)延長: これこそが、本記事の前半で解説した、屋根コマンドが屋根タイプに応じて自動で値を上書きするパラメータです。もちろん、配置後に設計者が手動で値を変更し、納まりを微調整することも可能です。
5. 巴瓦・隅巴(日本瓦モード・寄棟/L字のみ)
隅棟の軒先側(水下)を飾る、和瓦の象徴的な役物です。
- 隅巴表示: 隅棟の先端に隅巴を表示するかどうかを指定します。このスイッチは、実は JTile の設定ダイアログにある隅巴表示スイッチと連動しており、どちらかを操作すればもう一方にも反映されます。
- 巴瓦直径、巴瓦長さ、隅巴 テーパー率、隅巴 起き角度といったパラメータを駆使することで、隅巴の形状を詳細に作り込むことができます。特に格式の高い寺社建築のモデリングなどにおいて、その表現力を発揮します。
6. 端キャップ(大棟の端点)
- 端キャップ表示(大棟のみ): 大棟の両端を、箱状のキャップ役物で納めるかどうかを選択します。JTile モードでは、屋根コマンドが大棟の HipTile に対して自動で ON をセットします(FlatTile / MetalRoof モードでは OFF)。端キャップを出したくない場合は、ダイアログから OFF に変更してください。
ところで、この端キャップは通称「鬼瓦(おにがわら)」とも呼ばれる役物です。Archelier では幾何学的な箱形のキャップを自動生成するに留めていますが、最近は点群スキャンで実物の鬼瓦を立体データとして取り込めるようになってきました。社寺建築の本格的な鬼瓦や、地方ごとに特色のある意匠の鬼瓦をスキャンして、ArchiCAD のモルフ(Morph)で形状を整え、HipTile の端部に置き換えてみる、といった応用も面白いかもしれません。Archelier がまず屋根全体の骨格を素早く整え、最後の意匠の決め手は設計者側で自由に作り込む。そんなワークフローにも、こうした表現の余白は開かれています。
7. 軒先・棟端の垂直トリム — C++ SEO で自動処理
HipTile は、設定された延長値に従って、屋根スラブの端点からはみ出す形で配置されます。しかし、そのままでは端部が斜めに伸びたままになってしまいます。これを軒先ラインやケラバラインに沿って垂直にカットする必要があります。当初、この処理を GDL の CUTPLANE コマンドで実装しようと試みましたが、屋根の複雑なジオメトリに対して安定した切断面を得ることが難しく、断念しました。そこで Archelier では、アドオン本体である C++ 側でソリッド編集(SEO)による減算処理を自動実行する方式に切り替えました。これにより、HipTile が配置されると同時に、はみ出した不要部分が即座に垂直カットされ、設計者は何も意識することなく、常に正しい形状の棟モデルを得ることができます。
設計変更への対応 — 屋根コマンドを再実行
JTile 編でも触れましたが、HipTile もまた、元となる屋根スラブの形状編集には自動で追従しません。これは、屋根形状の変更が、隅棟や大棟の「存在そのもの」や「接続関係」を根本から変えてしまう可能性があるため、単純な追従では設計者の意図を汲み取れないからです。では、設計変更にはどう対応するのか。答えはシンプルです。屋根スラブの形状を編集した後、対象の屋根を選択して、もう一度 Archelier の屋根コマンドを再実行してください。コマンドは新しい屋根形状を再認識し、HipTile を含む全ての屋根要素を最適な形で再配置します。一見、手間に感じるかもしれませんが、「コマンド一発で、いつでもゼロから正しい状態を再生成できる」という手軽さと確実性は、複雑な屋根形状を扱う上での大きな安心材料となります。
どんなときに HipTile を使う/使わないか
HipTile が連携配置されるケースと、そうでないケースを整理しておきましょう。
- 使うケース: 寄棟、切妻、T字、L字など、屋根面に大棟や隅棟といった「稜線」が存在するほとんどの屋根形状で利用します。親となる屋根の瓦タイプは JTile、FlatTile、MetalRoof のいずれでも構いません。
- 使わないケース: 片流れ屋根のように、屋根面に棟がそもそも存在しない形状では、HipTile は配置されません。また、FoldedRoof(折板屋根)は、それ自身が専用の棟処理機能を持っているため、HipTile は連携せず、FoldedRoof オブジェクト単体で棟が表現されます。
補足として、HipTile はライブラリ上の単体オブジェクトとしても登録されているため、自動配置メニューが対応していない棟については、設計者側でライブラリから直接配置することも可能です。例えば、現バージョンで未対応の入母屋屋根の下り棟や、寄棟頂部から複雑に分岐する棟など。長さ・角度・位置をすべて手で指定する必要があり、いささか力技にはなりますが、HipTile はパラメータが豊富で意匠を細かく作り込めるため、特殊な棟まわりが必要な場面でも十分実用的に使っていただけます。今後、入母屋などへの自動対応を進めていく中でも、こうした手動配置のフローはサポートを続けていく予定です。
現状の制約 — 入母屋・反り屋根 未対応
JTile と同様に、HipTile もまた、現状では入母屋屋根や反りのある屋根、あるいは ArchiCAD の基本ツールで作成した曲線屋根には対応していません。これらの複雑な形状では、棟の取り合いが二次元的な計算では解けず、より高度な三次元的なジオメトリ処理が必要となるためです。矩形プランのシンプルな入母屋については、ユーザーの皆様からのご要望が多ければ、将来的な実装を検討したいと考えています。しかし、隅木自体に反りがあるような屋根への対応は、技術的なハードルが非常に高く、現時点では具体的な計画はありません。
その他、マンサード屋根や腰折れ屋根といった、屋根面の途中で勾配が切り替わる形状についても、正式なサポート対象には含めていません。ただし、こうした屋根を扱うことが不可能というわけでもありません。屋根面を勾配ごとに上下や前後で分割して描き、それぞれの面に対して屋根コマンドを実行する。その上で、自動配置された HipTile の勾配や延長値を手動で微調整する。多少の力技を許容できるなら、HipTile はパラメータが豊富な分、こうした変則的な屋根にも十分に応用していただけます。
次回予告 — MetalRoof 編
Archelier 使い方ガイド、シリーズ第5弾では、いよいよ「MetalRoof(金属屋根)」を取り上げます。瓦系の屋根とはまったく異なる思想で設計された MetalRoof は、立平葺きや瓦棒葺きといった金属屋根特有のディテールをパラメータで制御できます。特に、設計者が手動で調整しがちな「軒先・水上の自動延長」機能や、一枚の長い板金で葺く「連続板金モード」、そして専用オブジェクトとして用意された「水切・ケラバ処理」など、金属屋根のモデリングを効率化する独自の機能について詳しく解説する予定です。もちろん、今回ご紹介した HipTile と組み合わせて使われる、シンプルな金属屋根のパターンにも触れていきますので、ご期待ください。
Archelier の屋根機能の詳細は 機能紹介ページ をご覧ください。