Archelier 使い方ガイド、第2弾へようこそ。開発者の私がお届けします。前回は、ArchiCAD の屋根スラブから瓦・棟・ケラバ・水切りまでを自動配置する Archelier の「概要編」をお届けしました。5種類の瓦タイプと4種類の屋根形状に対応し、設計者の手間を劇的に削減する仕組みについて解説しましたが、きっと「便利そうだけど、5種類もある瓦タイプをどう使い分ければいいの?」と感じられた方も多いのではないでしょうか。今回からは、各瓦タイプを一つずつ掘り下げていきます。そのトップバッターとして、最もシンプルで導入しやすい「FlatTile(平板瓦)」を取り上げます。基本でありながら、実務での使用頻度が非常に高いこの瓦タイプをマスターすることで、Archelier の持つポテンシャルの第一歩を体感していただけるはずです。

FlatTile とは — 現代住宅に最も馴染む平板瓦

「平板瓦(へいばんがわら)」とは、その名の通り、表面がフラットな形状を持つ瓦のことです。粘土を焼成して作る陶器瓦の一種で、耐久性・防水性に優れます。和瓦のような曲線的な凹凸がなく、すっきりとした水平ラインが続くため、非常にモダンでミニマルな印象を与えます。

こうした特性から、FlatTile は現代的なデザインの住宅に非常によく馴染みます。シンプルモダンやミニマルスタイルの建築では、屋根の存在感を主張しすぎず、建物全体のシャープなフォルムを引き立ててくれます。また、和瓦(JTile)に比べてコストパフォーマンスに優れ、施工性も高いことから、多くのプロジェクトで標準的な選択肢として採用されています。

Archelier には5つの瓦タイプがありますが、もしどれから試すか迷ったら、まずはこの FlatTile から触れてみることをお勧めします。操作が直感的で、パラメータの意味も理解しやすいため、Archelier の基本思想である「設計者の思考を止めない自動化」を最も手軽に体験できるはずです。

配置の基本フロー

FlatTile の配置は、驚くほど簡単です。第1弾でも触れましたが、改めてフローを確認しましょう。

まず、ArchiCAD 標準の屋根ツールで、いつも通り屋根スラブを描きます。次に、屋根スラブを選択した状態で、Archelier の屋根配置メニューを起動し、瓦タイプの一覧から「FlatTile」を選択して OK ボタンを押す。たったこれだけです。Archelier が屋根スラブの形状を認識し、平板瓦を全面に自動で配置します。さらに、寄棟や切妻の頂部には、棟役物である「HipTile」も自動で連携して配置されます。

FlatTile で押さえる5つのパラメータ

ここからが本記事の本丸です。FlatTile を選択すると、いくつかのパラメータを調整できます。これらを理解することで、単なる自動配置から一歩進んで、意図した通りのリアルな屋根表現が可能になります。今回は、特に重要な5つのパラメータに絞って解説します。

1. 瓦 全幅 / 瓦 全長

これは、瓦1枚そのものの「製品寸法」を指します。「瓦 全幅」が瓦の幅、「瓦 全長」が流れ方向(屋根の傾斜に沿った方向)の長さです。

この数値は、メーカーの製品カタログに記載されている「外形寸法」や「製品寸法」といった項目を参照して入力します。例えば、一般的な平板瓦であれば、瓦 全幅が 310mm 前後、瓦 全長が 410mm 前後といった値になりますが、製品によって微妙に異なります。この寸法を正確に入力することが、最終的な見た目のリアルさを大きく左右する第一歩となります。

2. 働き幅 / 働き長さ

設計実務において、より重要になるのがこちらの「働き寸法」です(「働き長さ」は「働き足」とも呼ばれます)。

瓦は、雨水の侵入を防ぐために上下左右の瓦と重なり合う部分があります。この重なり代を引いた、実際に屋根の表面に見える部分の寸法が「働き寸法」です。そのため、必ず「瓦 全幅」「瓦 全長」よりも小さい値になります。カタログでは「働き寸法」や「葺き足寸法」「ピッチ」などと表記されています。設計者は、この働き寸法が正しく設定されていれば、屋根全体の割り付けが正しく行われると考えていただいて差し支えありません。

実務上の運用としては、メーカーのカタログを開けば、ほとんどの製品で「製品寸法」と「働き寸法」の 2 つが必ず併記されています。その 2 つの数値をそのまま「瓦 全幅/瓦 全長」と「働き幅/働き長さ」に入力する、と覚えていただければ迷うことはありません。

3. 自動瓦割り

「自動瓦割り」は、Archelier が屋根の大きさに合わせて瓦の列数・行数を自動で計算するかどうかを決めるパラメータです。デフォルトは ON になっており、通常はこのままで問題ありません。

ON の状態では、指定された働き寸法(働き幅 / 働き長さ)を元に、屋根スラブの端から端までに何枚の瓦が並ぶかを自動で計算します。流れ方向(軒先〜棟)で割り切れない半端な寸法が出た場合は、最終段の瓦を短くカットして調整します。

一方、桁行方向(横方向)は「瓦割り」が原則です。屋根の桁行スパンを瓦の働き幅の整数倍に合わせる、あるいは袖瓦・ケラバ役物の幅で調整するというのが、現場の慣行となります。瓦割り自体はユーザー側であらかじめきちんと行っていただく前提ですが、Archelier は瓦割りが完全に合っていなくても、どちらの方向にも瓦が破綻せず配置されるよう設計されています。

OFF(手動)に切り替えるのは、列数や段数を直接指定したい、といった非常に特殊なケースに限られます。

4. 千鳥配置

「千鳥配置」を ON にすると、瓦が一段ごとに半ピッチずれて配置される「千鳥葺き(ちどりぶき)」になります。

平板瓦の施工では、この千鳥葺きが一般的です。上下の瓦の継ぎ目が一直線に並ばないようにすることで、防水性や耐風性を高める意図があります。屋根を斜め下から見上げたとき、瓦のラインが段ごとに少しずつズレてジグザグに見えるのが千鳥葺き、縦に一直線にきれいに揃って見えるのが OFF の状態、とお考えいただくとイメージが湧くかと思います。

モデリング上でも、この「千鳥配置」を ON にするだけで、屋根の表情がぐっとリアルになります。同じ屋根スラブでも、ON / OFF で印象がかなり変わりますので、ぜひ試してみてください。

5. 棟の幅

これは少し専門的なパラメータで、「棟頂部で、平瓦の葺き終わりをどのくらい手前で止めるか」をコントロールする値です。

寄棟の隅棟(角の部分)では、平瓦は斜めにカットされますが、そのカットラインは Archelier が自動で計算してくれます。一方で、大棟(屋根のてっぺん)側で瓦をどこまで葺き上げるかは、この「棟の幅」の値が影響します。通常は 0 のままで問題ありません。これは、後から被せる棟役物(HipTile)が、平瓦の端部をきれいに隠してくれることを前提としているためです。設計上、意図的に棟芯から平瓦を離したい場合などに調整するカスタム用のパラメータだとお考えください。

棟・隅棟は HipTile が自動で連携

FlatTile の設定をしていると、「棟はどうなるんだ?」と疑問に思われるかもしれません。ご安心ください。瓦タイプで FlatTile を選択した場合でも、屋根の頂部(大棟)や角(隅棟)には、棟専用の役物である「HipTile」が自動で配置されます。

ただし、切妻屋根の場合は例外です。切妻屋根では HipTile は使いません。切妻の大棟は、屋根本体(FlatTile)側に棟まわりを納めるためのパラメータが用意されているため、そちらで調整していただく形になります。もし切妻屋根に HipTile が配置されてしまっている場合は、お手数ですが削除していただきますようお願いいたします。

つまり、設計者であるあなたは FlatTile のパラメータ(特に働き寸法)に集中するだけでよく、棟まわりの複雑な納まりは Archelier がよしなに処理してくれます。この「適切な役割分担」こそ、私たちが目指した設計支援の形です。HipTile の詳細なパラメータについては、シリーズ第4弾で詳しく解説する予定です。

設計変更への追従性

Archelier の大きな強みの一つが、設計変更への追従性です。例えば、施主との打ち合わせで「軒の出をもう少し伸ばしたい」という話になったとします。

平板瓦(FlatTile)の場合、軒の出を変更するには、ArchiCAD の屋根スラブ本体を編集していただく必要があります。FlatTile などの瓦系のオブジェクトは、屋根オブジェクト単体で軒先を伸ばすことはできません。屋根スラブの辺を引き出して軒を伸ばせば、Archelier はその変更を検知して、瓦の働き寸法を維持したまま、列数や端部の納まりを自動で再計算してくれます。瓦を貼り直すような面倒な手間は一切ありません。

なお、後のシリーズで扱う金属屋根(MetalRoof)や折板屋根(FoldedRoof)では、屋根スラブを編集せずとも、屋根オブジェクト側の「軒先延長」「水上延長」といったパラメータで屋根を伸ばすことができます。瓦タイプによって対応している調整方法が異なるので、その違いも今後の記事で詳しく解説していきます。

いずれの方法でも、設計変更に伴う面倒な再作図から解放され、より本質的なデザイン検討に時間を割くことができます。

どんなときに FlatTile を選ぶか

最後に、実務で FlatTile を選択する具体的なシーンをまとめてみましょう。

  • 現代住宅・モダン住宅・ミニマルな意匠のプロジェクト
  • 施主とのコストバランスを検討し、平板瓦案を提示したいとき
  • 短工期が求められ、施工性を重視する案件
  • 和の意匠を強く求められる場合は → JTile を検討(次回解説)
  • 工場や倉庫、カーポートなどには → MetalRoof / FoldedRoof が適任(今後のシリーズで解説)

このように、FlatTile は現代の住宅設計におけるスタンダードな選択肢として、非常に幅広いシーンで活躍します。

次回予告 — JTile(日本瓦・和瓦)編

さて、今回は最もベーシックな FlatTile をご紹介しました。次回、シリーズ第3弾では、いよいよ「JTile(日本瓦)」を取り上げます。

桟瓦の持つ独特の丸みや段差、軒先の瓦が連なる美しいディテール、そして冠瓦との複雑な取り合い。こうした伝統的な瓦屋根の表現に、Archelier がどこまで踏み込んでいるのかを詳しく解説していきます。FlatTile が現代住宅への入口だとすれば、JTile は Archelier の表現力の真骨頂とも言える部分です。どうぞご期待ください。

Archelier の屋根機能の詳細は 機能紹介ページ をご覧ください。